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会報より

立川清登の「魔笛」のアリア 会員番号 K412 松本 秋次

 その日は、第17回東北音楽教育研究会秋田大会第2日目であった。日程の後半に特別記念公演を予定していたが、折あしく朝から大雨であった。にもかかわらず、県民会館の大ホールは各県の会員と一般市民であふれていた。
その公演の一つは立川清登のバリトン独唱で、伴奏は小野崎孝輔であった。ところが、旧秋田空港の定期便が欠航し、2人は4人乗り自家用セスナ機で雨をついて飛来し、パイロットは空港職員が目を見張るほど冒険的に着陸し、出演時刻に間に合った。
立川のステージは、最初に日本歌曲を数曲歌い、次いで歌曲「魔笛」(K620)第2幕「パパゲーノのアリア」に移った。鳥寄せの笛を吹きながらの「俺は鳥刺し」と魔法の鈴を鳴らしながら歌う「恋人か女房がいたら」だった。軽快でユーモアにあふれ、魅力的な独唱は、息が伴奏とぴったりと合い、満員の聴衆を完全にモォツアルトのオペラの世界に誘い込んだ。全く聴きほれた感動のひと時だった。
昭和44年7月28日のことである。立川が亡くなって10年余、毎年今ごろになると、彼の「パパゲーノのアリア」を思い出す。