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会報より

思い出のリート 会員番号 K476 佐々木 孝

 モーツァルトは私にとって身近でもあり、遠い存在でもある。魅力を感じながらも、どちらかと言えば、ベートーヴェンやシューベルト、そして後期浪漫派の作曲家達のレコード集めのように没頭することがなかったと思う。

 50年来の友、松本氏(今は病床にあるが)の熱心な勧めにより「モォツァルト広場」にK氏とともに入会した。不案内なモーツァルトに触れることも悪くないと考えての入会だった。

 「モォツァルト広場」に入会するには、手続きとして会費納入の外に、会員番号代わりにケッヘル番号を登録しなければならないとのことだった。思いつくものを数曲挙げてはみたが、それらはすべて登録済みとのことだった。仕方なくあれこれ、思い巡らしているうちに一枚のドーナツ盤のレコードを思い出した。

 それは、結婚のお祝いに家内の友達からいただいたもので、当時。売り出されたエンゼルの45回転のEPレコード、50年近くも前のことなので、わが家のどこかで眠っていて、確かめようがない。この一枚はモーツァルトの歌曲でA面が「すみれ」、B面が「春の憧憬」とラベルに標されていた。アーチストはエリザベート・シュワルツコップであったと思う。どちらも珠玉の名曲、私は「春の憧憬」のメロディーをすぐ覚えて、なんとなく浮き浮きする。五月生まれのせいと思ったりしていた。何年か経て、この曲がわが国で明治以来歌い継がれてきた名曲「早春賦」や近ごろはやり出した「知床旅情」と曲想が似ていることが話題になった時期があったりして、このレコードを思い起こす機会が多かった。にもかかわらずに、番号として476の「すみれ」を登録した。「すみれ」は、亡妻が秋大の学生当時、卒業演奏や県内の巡回演奏の折、歌った馴染みの曲でもあり、なんとなく奥ゆかしさを感じていた曲でもあった。漠然と妻への追悼の意味もあったかもしれない。

 このことも、レコードのことも松本氏には語っていなかったのに、一緒に入会したK氏のケッヘル番号に596の「春の憧れ」にしたらと口添えしたということを後で聞いた。

偶然の一致なのか、どうなのかを確かめようと思いながら、確かめなかったことが悔やまれる。

 私がレコード収集に熱を上げたのはSP盤の時代である。その後、EP、LPと次々と録音技術も再生器械も向上し、さらにテープデッキの時代を経て、CDへと目まぐるしく動いた。次々と変転するこの世界には、ついて行けず、中断、落伍の道をたどった。経費も試聴する時間もなくなり、昔のように新譜を追いかけていたマニア時代が懐かしい。

それでも、リートが二曲入ったドーナツ盤の代わりに、同じく東芝のCDでエリー・アメリンクのモーツァルト歌曲集十九曲入り「春のあこがれ」を購入した。ついでピアノ協奏曲(K595)も聴いてみたいと思っている